遥かなるパン

食べ物の話題が続きますが、今日は、パンについて少しお話しましょう。
私は、ご飯もパスタもパンも大好きです。
ご飯が炊けるときの匂いは、子どもの頃の家で台所に立っていた母の姿を思い出させてくれます。
パスタをゆでる時には、昔よくマカロニとトマトソースのお昼ご飯をご馳走してくれた、亡くなったイタリア人の神父を思い出します。
そして、パンの焼ける匂いを嗅ぐと、「ああ、我が家にいる…」と実感するのです。


我が家では、休日に、Haimがパンを作ってくれます。彼はパンを作るのが大好き。
粉をこねていると元気になれるそうで、時々、無性にパンを作りたくなるようです。
「今日はカレーよ」と私がいうと、「じゃあ、ナンを焼くよ」とHaim。
「Lucy(娘)の友達が遊びに来るから、ビーフシチューにしましょうか」と言えば、
「パンを作らせて。バジルを入れてもいいかな?プレーンな方がいい?」などと訊くので、
私は、即座に「両方がいい!」と答えることにしています。
すると彼は大満足で大きなボウルと小麦粉を取り出し、真剣な顔で、生地をこね始めます。
記事を練っているときのHaimの顔も真剣ですが、パン作りの時には、全身を使うので、額に汗をにじませ、頬を紅潮させて、熱中しています。その姿を見ていると、なんとなく少年時代の彼が想像できて、思わず微笑んでしまいます。
彼は、お母さんの手伝いをよくする子で、中学生の頃は、夕方近くになると、お風呂を沸かすための薪を斧で割ったものだと聞いたことがあります。華奢な体で懸命に薪を割る少年の姿を思い浮かべ、ふといとおしくなり、「この人となら結婚してもいいな」とおぼろげに思ったのはその時でした。


Haimがパン作りをいつ覚えたのかはよくわからないのですが、とにかく、いろんなパンを作ってくれます。
たまには、私も一緒に作りますが、多くの場合は、彼がパン作りの楽しみを独占します。
そうしてパンが焼けるまでの間、私はほかの料理を作りながら、二人で音楽を聴いたり、会話を楽しんだりします。


パンの起源は、B.C.7000年頃のメソポタミアに遡ると言われていますが、
粉を水で溶いて薄く伸ばしただけの生地を石の上で焼いただけのものから、
バターをたっぷり入れ、何層もに練り上げたデニッシュまで、
実におよそ9000年もの間、世界の様々な地域で、実に多くの種類のパンが作られ、食され、
人々の心と体を力づけているのだと思うと、深い感慨にひたり、
いつも何気なく食べているパンを、一口一口噛みしめて味わいたくなります。


下にご紹介する写真は、Haimが最近作ってくれた我が家のパンです。


ピタ、牛肉と椎茸の炒め物、サラダ、マンゴージュース



大きく膨らんだ焼きたてのピタパ


   
馬鈴薯ローズマリーを練りこんだ丸いパン           デーツを練りこんだバタール風のパン


パンについて書かれた本は数えきれないほど多くありますね。
私が出会った本は、聖書学者の池田裕先生が、聖書の国の日常生活のシリーズ第3弾として出版された『遥かなるパン』(教文館)です。
1969年から1977年まで、エルサレムヘブライ大学で学ばれた先生が、古代と現代を自在に行き来して様々なエピソードを交え、
イスラエルに住むユダヤ人やベドウィンの人々の生活を紹介しながら、リズム感と詩情あふれる文章でかの地で出会ったパンの話をしてくれるのです。
随所にちりばめられた横山匡さんの写真も素晴らしく、この本は、同シリーズ第1弾『アダムの青春と魚』第2弾の『海の色はワイン色』と並んで、私の宝物(ほかにもたくさんあるのです)の一つです。


日本では本当に様々なパンを食べることができますが、日本でのパン作りはどのように始まったのでしょうか。
各地のパン職人の方のお話を伺い、その方々が愛情を込めて作ってくださるパンを食べてみたくなります。


インターネットでも、パンの歴史や、様々な種類のパンや作り方が紹介されていますね。
ウィキペデイアの「パン」http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%B3
「幻想万象資料館」の「パン」http://homepage3.nifty.com/onion/labo/bread.htm
おいしいパン.netの「パンの知恵袋」 http://www.oishii-pan.net/knowledge/history.html
などなどです。
パンに興味をお持ちの方、お仕事の合間にでも、ちょっとお訪ねになってはいかがでしょう。