教育の復興  国際医療福祉大学教授 和田秀樹さんの提言

産経ニュースの記事をご紹介します。復興における「教育」の果たす役割の大きさを深く認識した教授の提言をしっかりと受け止め、採用していくことは有益だと思います。被災した東北地方の県知事も、寄宿学校を作りたいと仰っていましたね。

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産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/column/topics/column-14594-t1.htm
【正論】
精神科医 国際医療福祉大学教授 和田秀樹
2011.4.13 03:07


■将来に備え教育の「復興」を急げ

 東日本大震災で被災された方、ご家族や家を失った方には心よりお見舞い申し上げたい。その一方で、今後のことを考える重要性も高い。精神科医の立場としては、心のケアなど気がかりなことは多々あるが、ここではあえて教育の復興についての提言をしたい。

 ≪復興・発展を支えるのは人間≫

 インフラなどはさまざまな形で復旧されていくだろうが、広い意味で被災地の今後の復興・発展を支えるのは、何といっても人間である。だが、これほど大規模な自然災害だと、被災地の教育水準にもいろんな支障を引き起こす。

 学校が潰れてしまって授業の再開が困難になるといった直接的な被害だけでなく、避難所生活で落ちついて勉強ができないとか、親の仕事の再開が困難になったり身内に死者・行方不明者がいたりして精神的不安に陥るとかで、これまで通りの勉強ができなくなる子供たちが多数、出てくるのだ。

 非常時だから1、2カ月、勉強をしない時期があってもいいではないか、と思われるかもしれないが、その波紋は意外に大きい。

 端的な例を取れば、来年度の受験生(本年度については、ほとんどの受験が終わっていたのは幸いかもしれない)にとって、2カ月のブランクが致命的になることは十分にあり得る話だ。段ボール箱を机にして勉強をする涙ぐましい姿をテレビで見るにつけ、まさに頑張れと言いたくなるが、その間も被災しなかった受験生は、勉強の手を抜くことはないだろうし、それを咎(とが)めることもできない。

 小学生の子供であっても、最近は学習習慣の重要性が強調されている。30分でも1時間でもいいから、毎日家庭学習をすることに意味があるということだ。確かに、1、2カ月勉強から遠ざかったところで、小学生であれば基礎学力に決定的な差がつくことは稀だろう。しかし、いったん学習習慣が途切れてしまうと、それを立て直すのにかなりの時間がかかり、将来の学力格差を広げかねない。

 ≪校舎なくても授業は再開せよ≫

 教育の再建が必須かつ急務である理由は、そうした点にもある。校舎がなくても、被災を免れた建物の一室を借りてまでも、授業は早急に再開されるべきだろう。

 日本が戦後の焦土から復興した際も、最悪の条件下で教育を行った。教材も校舎もない中、教師の熱意や生徒の勤勉により、少なくとも平均値で言えば、世界で最も学力水準、知的水準が高い国民を生み出してきたし、実際、それが戦後の高度成長を支えてきた。教育だけは、条件が揃うのを待たず早急に再開していただきたい。

 過激だと受け取られるかもしれないが、劣悪な教育環境下の子供は“疎開”させるのも一案だ。

 年端のいかない子供を親元や故郷から引き離してまで勉学を優先させるのか、との批判もあろう。が、今は日本全体が温かく受け入れる気持ちもあり、その態勢も整いつつある。多くの研究で、子供は保護的な環境にいさえすれば、親と一緒でなくても立派に育つことが明らかになっている。とりわけ中学生以上なら、米国では、寄宿制の学校への入学は、エリート教育の標準とさえなっている。

 私事にわたり恐縮だが、私が経営する塾では、福島県いわき市に初めてできた中高一貫校のカリキュラムなどのコンサルティングを行っている。この学校では幸い、教師と生徒は無事だったが、海側の被害が甚大だったうえ、福島原発への不安もあり、多くの生徒が首都圏に避難しているという。

 ≪“学童疎開”することの効用≫

 学校側と協議したうえで、これらの生徒たちに、私の塾の自習室を貸して、テレビ会議システムと自習で授業時間に相当するだけ通ってもらい、それを登校と認めるという特例措置を行うことになった。折角の機会だからと、多数の塾講師たちがボランティアを申し出てくれて、質問を受けたり、特別講義を企画したりしている。

 被災地に厳しいことを言うようだが、東北地方は、秋田や青森など小中学生の学力調査で上位の県はあるものの、東大や医学部への進学実績は西日本と比べるとかなり見劣りがする。医学部の進学実績の悪さは、東北地方の医師不足にもつながっている。最終的に出身地に帰る医師が多いからだ。

 “学童疎開”をすれば、他の地域ではどの程度の教育を受けているのか、他地域の生徒の学力はどのレベルのものなのか、などを肌で感じる好機ともなるだろう。

 それに、十分な学力があれば、被災も乗り越えられる。私の母校である関西の進学校は、阪神・淡路大震災の1カ月少し後に、東大入試を迎えたが、合格者数は全く減らさなかった。その後も、東大合格者数は変わっていないし、医学部合格者はむしろ増えている。生徒らが震災によって医療の必要性を痛感したことが、医学部進学への動機を強めたのだという。

 関東大震災の翌日に内務大臣に就任した後藤新平は、「復旧」の代わりに「復興」という言葉を使ったそうだが、このような大災禍の折にこそ、東北地方の教育の復興を願いたいし、応援したい。(わだ ひでき)