福島原子力発電所での事故を受けて ―報道のあり方、そして日本の危機管理について―

3月23日午後、「東京の金町浄水場の水道水で、乳児の基準値100ベクレルを上回る放射性ヨウ素131が検出されたので、乳児は摂取を控えるように」との報道がテレビで流れました。私が住んでいる地域では、金町浄水場と同じく江戸川を水源とする野菊の里浄水場からの水道水を使用しています。おそらく千葉でも同様のことが起きるだろうと予想した私は、すぐに自分の住む千葉県の水道局に電話し、東京だけでなく首都圏の浄水場でのモニタリング結果を迅速に広報してほしいと要望しました。私と同じような行動をとった人は他にもいることでしょう。ほどなくして、NHKテレビで、「千葉県の野菊の里浄水場からの水を使用している地域でも、念のために乳児は水道水の摂取を控えるように」との報道があり、その翌日には、やはり乳児の基準値を上回る検出結果が通知された上で、改めて、乳児の水道水摂取を控えるようにとの勧告がされました。

この報道の後、またたく間に、スーパーの棚からミネラルウォーターが消え、インターネットの通信販売でも、軟水のミネラルウォーターを購入することは難しいという事態になりました。自治体では、乳児のいる家庭に安全な水を配布するという措置がとられましたね。その後数日すると、放射性物質の値は下がり、首都圏の市民は、ほっと胸をなでおろしたのでした。

しかし、3月30日、私はインターネット上で、「3月22日に千葉浄水場で大人の基準値を超える370ベクレルの放射性ヨウ素131が検出されていた」との報道を目にしました。時事通信によるものでした。以下に引用します。

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http://www.jiji.com/jc/zc?k=201103/2011033000471

大人の基準超す放射性物質=22日採取の水から−千葉県
 千葉県八千代市の睦浄水場の入り口手前で22日に採取した飲用水から、大人の飲用基準(1キログラム当たり300ベクレル)を超える放射性ヨウ素131が検出されていたことが30日、分かった。
 市と県によると、この水から370ベクレルの放射性ヨウ素が検出された。また、同浄水場に給水している北千葉浄水場で22日採取されたサンプルを調べたところ、336ベクレルが確認された。
 北千葉浄水場は、八千代市松戸市など7市に水を供給している。28日に採取した水から放射性ヨウ素は検出されておらず、県は現在、飲用を控える呼び掛けはしていない。(2011/03/30-13:53)
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このことについては、私が知る限り、NHKテレビでも、一度だけ報道がなされました。が、その後は話題に上ることもありません。

千葉県は、千葉浄水場での検出結果を、なぜすぐに県民に伝えなかったのでしょうか。おそらくく、混乱を避けるために、放射性ヨウ素131の半減期である8日間が過ぎてから発表したのでしょう。水道水の放射能汚染は短期間に収まるとの見通しもあったのでしょう。23日、24日に市民がミネラルウォーターを求めて奔走したことを考えると、この措置はやむを得なかったとの見方もできます。が、その一方では、政府や自治体が、真実を伝えてくれないのではないかとの疑念が高まったことも事実です。

風評被害を最小限に食い止めるためにも、政府や各自治体は国民を信頼し、本当のことを伝える姿勢をとり続けてほしいと思います。たとえ、原発事故の実態が予想以上に悪いものであっても、政府が誠実に国民に語りかけてくれれば、心ある多くの市民は、乳児、妊婦、子どもの健康を最優先にして協力するものと考えます。



福島原発2号機ピットからの高濃度汚染水の流出はほぼ止まったとのニュースを聞き、少しほっとしています。けれども、海水の汚染の改善についての見通しはまだ立ちません。他の流出ルートも調査し、事故を収束させるために、さらゆる対策を講じていくことになるのでしょう。事態を引き続き注視しながら、今後の安全対策、そして危機管理のあり方について議論を高めていきたいものです。

私の考えでは、安全対策はもちろん重要ですが、たとえ念には念を入れたとしても、想定を超える出来事が起こる可能性は常にありますまさかの事態が発生したときに、どのように対処するかという危機管理こそ、政治の手腕を最も問われるものであり、日頃から、シミュレーションを重ねて、対策の手順をルール化しておかなければならないものだと思うのです。事故が起こったときには、状況を甘く見ず、最初から徹底的な対策をとるのが鉄則ではないでしょうか。今回の事故を巡って、政府の初動について批判の声が上がっていますが、当然だと思います。原子力については素人の管首相が慌てて東京電力に赴いても、事の全容を把握することなど到底出来ません。首相への説明に注がれた現場の労力は、事故対策に振り向けられるべきものでした。この事実は重く、管首相は、必ずや責任を問われることになると思います。

今後、私たちが指導者を選ぶ機会を得たときには、なんとなく耳に心地よい理想を口にする人物ではなく、広い視野を持ち、判断力と誠実な行動に基づいて、確実に現実の問題に冷静に対応していくことのできる人物を選びたいものです。

バラマキと誤った情報の刷り込みによって、社会が毒されていくのを感じます。自助努力よりも他者による安易な救済に頼るとき、先入観や恐れや憎しみにとらわれて真実を見つめることが出来ないとき、国家や民族は危機に陥ります。

現在、日本が危機的な状況にあることを受け止めるとき、教育、教育に携わる人(第一義的には親と教員)の果たす責任も、いっそう重く問われるのではないでしょうか一人ひとりが何を大切に生きていくのかを問い続け、真剣に学び、行動していかなければ、日本の未来は暗いままです。なんとか日本を変えていかなければならないと思うのです。